犬猫の生食について。酵素やビタミン補給源としてのメリットや食中毒や過剰摂取のリスク

犬猫の生食とは

生食とは生の肉や内臓、骨、野菜を愛犬・愛猫に与えることです。

野生の狼や猫科の動物が生肉を摂取していたことや、それから徐々に家畜化されて人からの施し、食べ残しを食べる生活だったことから、近年でも犬猫の生食について考えられるようになりました。生食に明確な定義はありませんが、飼い主や獣医師などがそれぞれの解釈で「生食(Raw food)」の考え方や取り組み方、与え方などを作り出しています。

生食については常に是否が問われていて、生食家の間でも取り組み方や考え方に違いがあります。

生食のメリット

  • 生きた酵素を摂取できる
  • 熱に弱いビタミン類を摂取できる
  • ミンチのような生肉なら消化もバッチリ
  • 動物性たんぱく質の消化吸収率が高い
  • 添加物の摂取がない

生食であれば総合栄養食のドライフードでは栄養添加物に頼っているような部分も直接摂取することができます。

生食のリスク

しかし生食が非常に難しいものであることは知るほどに思うことでもあります。

寄生虫や細菌、ウイルス、真菌の問題

最初に思い浮かぶであろう生食の問題が寄生虫や細菌です。

もちろん犬や猫と人では体の作りは違いますが、安全性という面から考えるのであれば、基本的には人と同じであると考える方が安全性は高まります。

サルモネラ菌やカンピロバクターなど

豚やジビエを生で与えるのは危険です。豚はサルモネラ菌を始め、カンピロバクターなど食中毒のリスクがあります。鹿やイノシシなどのジビエも同様です。

E型肝炎ウイルス

因みにE型肝炎ウイルスに感染する恐れがあります。E型肝炎は人の急性肝炎ですが、犬も猫も抗体は検出されているため感染はすると考えられています。しかし症状は示さないまま体外へ排出されると考えられています。

トキソプラズマ症

猫の場合でわかりやすいもので人畜共通感染症であるトキソプラズマ症があります。家畜が例えばトキソプラズマ症に感染した猫の糞などで汚染された草や餌を食べると、原虫が家畜の筋肉中にシスト(サナギのようなもの)を形成し、その肉を生食するだけで人も動物もトキソプラズマ症に感染します。

猫はトキソプラズマの終宿主なので小腸で繁殖活動を行って、オーシスト(虫卵のようなもの)を糞便中に排出します。

犬も感染はしますが免疫力が低下しているような時でなければ症状が出ません。犬はトキソプラズマの中間宿主のため、猫のように小腸に寄生してオーシストを排泄して広めるようなことはありません。ではどうなるかというと、繁殖できない幼虫のようなものになり、細胞分裂を繰り返します。しかし免疫細胞が攻撃することでシストに変化し、筋肉中などで休眠状態になります。

このトキソプラズマのように生肉を食べるだけで簡単に感染する原虫もいます。

因みに生でも食べる牛は安全と思っているかもしれませんが、牛も豚も鶏も馬も全ての畜肉でシストが確認されています。

このように犬猫に生の畜肉を与え続けることがあれば簡単に感染してしまいます。

参考:ペットにおける畜肉の生食の危険性について(PDF)

生の原材料の温度の問題

細菌について考えるとどうしても鮮度を保つために生肉の温度は低くなってしまいます。ですが犬猫が本来食べていた生肉は体温と同じ位の温度でとても温かいものです。

犬は残した肉は埋めておいて後で食べたりと元々腐肉食者なので温度が低くても食べますが、冷蔵庫から出したばかりのような温度の肉は真冬でもない限りは(真冬では凍ってしまいますが)食べることがありません。

例えば人の場合、冬の雪山で喉が渇いて雪を食べてしまうと、体内に入った雪が冷たすぎることで体内の熱を奪われ、体力の消費が激しくなると共に、お腹を壊してより脱水症状になってしまいます。

つまり冷たいものを食べると体内が冷やされることによって、大量のエネルギーを消費し、これが毎回の食事ということになると体調を崩すことに繋がります。

では温度を上げた方がいいのかというと、温度を上げた生肉は当然細菌感染の問題が生じてきます。

生肉を適温で与えることは不可能ではないと思いますが、非常に手間もかかりますし、気を回さなければならないため、簡単に与えても大丈夫ですよとは言いにくい食事といえます。

因みに多少の菌がいてもなんともない犬猫もいます。こうした個体差も大きい部分が存在するからこそ、飼い主や獣医師などによって生食についての考え方に違いが出てしまう部分でもあります。

生の食材の大部分は水分

生の肉や内臓、骨、野菜の大部分は水分です。つまり生食で栄養素をしっかりと得るためにはそれなりの量を食べなくてはいけません

しかし中には少量で満たされる栄養素もあります。他の栄養素をしっかり摂取するために大量の食事を摂取しては、少量で満たされる栄養素は過剰摂取することになります。

反対に1日に必要な栄養素量に上限値がある栄養素に合わせれば、他の必要な栄養素量は満たされないということが生じます。

あくまで計算上のことですし言い切ることはできませんが、それであっても1日に必要と言われている栄養素を生食だけで摂取していくことはほとんど不可能に近いと考えられます。

AAFCOなどの栄養基準はペットフードに合わせたもの

AAFCOなどの栄養素量の基準はドライフードなど総合栄養食のペットフードを作るための基準として設けられたものです。

ペットフードと生の食材では栄養素が体内に入った後に活用できる割合に違いがありますので、同量の栄養素を摂取したとしても生の食材から得た栄養素の方が効率よく消化吸収、活用することができます。

このため必ずしも生食はAAFCOなどの基準を下回るからダメということではありません

生食の注意点としては栄養が非常に偏ることにあります。例えば犬に魚のレシピを与えた場合に起こりやすいことのひとつに上限値設定があるビタミンDの過剰摂取があります。このように一部の栄養素の取り過ぎを懸念しています。

生食は季節によって栄養素量が変わる

生食は季節や時期によって同じ食材でも栄養素量が変わってしまいます

昨日と今日買ったじゃがいもでも栄養素量は違うでしょう。肉類でも同様です。産地や時期、部位などで変わってしまいます。このようにどうしても同じものを与えることができません。

これが健康管理を難しくする要因のひとつにもなります。

実はドライフードでも同じことが起こります。1年中同じ食材を仕入れてドライフードを製造しますが、どうしても旬の時期、そうでない時期が出てきてしまいます。しかし水分含有量が少ないことと栄養添加物を使用することで一定の幅の中に収めることができます。

生食はドライフードなどの総合栄養食と併用すると取り組みやすい

あくまで私が現在思うところとしては、生食が必ずしも危ない・悪いということではなく、生食の良いところを取り入れながらドライフードなどの総合栄養食と併用していくという形が最も取り組みやすいのではないかと考えています。

ただ生食についての考え方は専門家の中でもそれぞれであり、食材の管理状態が違うだけでも善し悪しが変わってしまうのでなかなか正解をいうことは難しい食事です。

興味はあるけど寄生虫や細菌などが不安だというようであれば、生ではありませんが極力火を通したレシピと総合栄養食と併用することが最も簡単で、かつ食事の可能性が広がる取り組みではないでしょうか。

ペットフード販売士マッサン

ペットレシピ.jpの記事とレシピの執筆・監修をしています。

株式会社ヒューマル代表取締役。ペットフード販売士、ペット栄養管理士、愛玩動物飼養管理士一級、ペット共生住宅管理士、ペット防災指導員、コスメコンシェルジュ、化粧品検定一級、保育士資格習得者。愛猫をこよなく愛すアウトドアが趣味の40代。マッサンペットフーズを運営し、オリジナルペットフードを販売。ヨーロッパを旅して自身の希望のペットフードを製造できる工場を探し出して製造。輸入から販売までを手がけるペットフードの専門家として活動中。

関連記事