糖尿病とは
膵臓の疾患のひとつである糖尿病。
糖尿病は膵臓に存在するランゲルハンス島から分泌されるインスリンの作用不足によって起こります。
このインスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンなので、インスリンがなければ血糖値を下げる事ができなくなり、糖質、脂質、たんぱく質の代謝に影響を及ぼしてしまうのです。
犬猫ともに中齢以降の発症が多くみられますが、若齢期にみられる場合もあり、病気が進行すると、様々な合併症を発症することがあるので十分に注意が必要な病気です。
糖尿病の原因
糖尿病の原因は、遺伝的素質の関与や自己免疫反応、ウイルス感染によりランゲルハンス島のβ細胞が破壊されることが原因と考えられています。
その他にも肥満、ストレス、加齢などの環境要因も誘発原因と考えられています。
また、膵臓炎や膵臓がん、副腎皮質機能亢進症などの病気や、薬物によって併発する場合もあります。
糖尿病の症状
初期に症状が現れる事は比較的少ないといわれています。
病勢がかなり進行してから観察されることが多く、一般的には水をよく飲むようになり、尿量が著しく増えます。
下記のような症状があれば病院で検査することをおすすめします。
- 多飲多尿
- 食欲旺盛(初期症状)
- 体重減少(食欲はある)
- ふらつき
いつもより明確に水を多く飲んだり、トイレの回数も尿量も増えるといった状態は、糖尿病を患っている場合の特徴的症状です。
また食欲は旺盛で多食になるにもかかわらず、体重が減少するといった状態も十分に糖尿病が疑われる症状です。
また、血中に糖が急激に増えると血管内から活性酸素が大量に発生し、その活性酸素が血管にダメージを与えてしまうといわれています。
血管の異常で酸素と栄養が正常に運ばれなくなると、末梢神経障害による痛みやしびれふらつきなど表面的な症状を起こす事もあります。
なぜ多飲多尿になるの?
糖尿病はインスリンの作用不足であることを冒頭で解説しました。
インスリンは血中の糖をエネルギーに変換して血糖値を下げる働きがあるのですが、このインスリンが十分に分泌されない、十分に働かなくなると血液中のブドウ糖の濃度がとても高くなります。
血中のブドウ糖が濃くなりすぎて『高血糖』の状態になると、腎臓はブドウ糖を水分と一緒に尿として排出しようとするので、尿の量や回数が増える『多尿」という症状が出ます。
ブドウ糖の排出のために尿量を増やす時、体の中の水分が使われます。
インスリンが十分に働かず高血糖の状態が続くと、それを解消するために体の中の水分が使われ過ぎ、脱水状態になります。
脱水になるとのどが渇き、それを解消するために水をたくさん飲むようになる『多飲』という症状が出ます。
糖尿病の特徴的症状と言われる『多飲・多尿』は、上記のような理由から脱水症状が引き起こすループ的な症状です。
食べているのに体重が減少する理由
糖尿病にとってキーとなるのはインスリンです。
インスリンは血中の糖をエネルギーに変換させだけではなく、エネルギーに変換されず余った糖はグリコーゲンや中性脂肪に合成され蓄えられますが、その合成を促進するのもインスリンの働きです。
インスリン作用不足により、腎臓が血中の糖を尿から排出するようになると、インスリンの働きによるエネルギー変換やグリコーゲン、中性脂肪の合成が成されません。
また、糖を体外に排出されることで糖やアミノ酸を取り込むことが難しくなると、体は不足したエネルギーを筋肉や脂肪を分解して補うようになります。
そのため、食事はしっかりと食べているのに体重が減少してしまうという症状が起こるのです。
深刻な合併症
糖尿病になると様々な合併症を引き起こす可能性があります。
- 白内障
- 網膜症
- 自律神経障害
- 昏睡
このような糖尿病性神経症状、糖尿病性腎症、肝疾患、細菌感染症などがあります。
糖尿病になる事は、様々な疾患と向き合う可能性が高くなるという事を念頭に置いておきましょう。
参考:糖尿病における血管分子病態
糖尿病の治療
糖尿病が疑われる症状に気づいたら、早急に動物病院での検査を行う事をおすすめします。
糖尿病の治療は主に血糖値のコントロールと合併症の予防を目的として行われます。
治療法はインスリンや経口薬での薬物療法、食餌療法、運動療法の3つに大きく分けられます。
基本的にインスリンの投与と食餌療法によって血糖値のコントロールを行う事がほとんどといわれていますが、インスリンを使用しない場合ももちろんあります。
獣医師の指示に従い、正しいインスリンの投与や、食餌管理、飲水量や尿量、体重のチェックが重要となります。
糖尿病の場合、治療にインスリン投与が必要なケース、必要としないケースのどちらにしても食餌療法は必要となります。
食後の血糖値の変動を少なくするためにも個々の状況に合わせた食事内容、量を獣医師と相談しながら決めていくと良いでしょう。
1日に必要なエネルギー分の食事をバランスよく与える事が大切です。
肥満と糖尿病
糖尿病=肥満が原因というイメージがあると思います。
実際に肥満になるとインスリンが十分に分泌されていても脂肪組織から出る悪玉物質がインスリンの働きを邪魔をしてしまう『インスリン抵抗性』を起こします。
インスリンの働きが悪くなると、それを補うために膵臓はインスリンの分泌を増やすために過剰に働くようになり、それが続けば膵臓は疲れ、機能が低下してインスリンの分泌量が減ってしまいます。
このように肥満が原因でインスリン不足となれば糖尿病に至るというわけですが、実は犬は人間と違い肥満が原因で糖尿病に至るケースは少ないとされています。
しかし猫は犬に比べて肥満を原因とする糖尿病の発症は多く報告されています。
これは猫独自の代謝機構が要因となってインスリン抵抗性が引き起こされていると考えられています。
糖尿病以外にも肥満は万病のもとと言われるように、それを要因とする多くの疾患があります。
そのため、日ごろから愛犬愛猫の食事、体重管理は糖尿病やそのほかの疾患の予防になると考えます。
参考:犬におけるインスリン抵抗性と糖尿病発症に関するメタボローム研究
参考:猫の肥満および糖尿病の発症メカニズムの解析とその臨床応用
糖尿病予防の食事
糖尿病になると食餌管理は必須となります。
動物病院で指示された内容で血糖値のコントロールが大切となりますが、血糖値の変動緩和と予防が期待できる食材を使った手作りごはんを与えるのもひとつの方法です。
ただし糖尿病の場合、低血糖を起こしてしまうと命に係わる重篤な症状を引き起こしてしまうので、食事にこだわりすぎて全く何も食べなくなるのは危険です。
犬猫が頑として食べない場合、36時間以上は待たないように気をつけてください。
全く療法食や糖尿病対策の食事を食べない場合は犬猫が好む食事を与え、獣医師に相談しましょう。
血糖値の上昇を抑える食物繊維
食物繊維はコレステロールの吸収を抑え、脂質、糖、ナトリウム、また有害物質を吸着して体外に排出する働きがあります。
この働きはインスリンの働きを邪魔する脂肪の過剰な蓄積の抑制や血糖値上昇抑制に効果的と考えます。
腸内の善玉菌のエサとなり腸内環境改善が期待できることも体質改善、体重コントロールに役立ちますが、糖尿病が原因で削痩している場合には食物繊維の摂取に注意が必要な場合があるので必ず獣医師に確認しましょう。
食物繊維が豊富な食材
食材名 | 食材名 |
---|---|
さつまいも | まいたけ |
玄米 | えのき |
オートミール | いんげん豆 |
大根 | 大豆 |
ごぼう | 寒天 |
オクラ | きな粉 |
しめじ | わかめ |
芋類や根菜類、穀物は炭水化物が多く、糖尿病に不向きに感じられますが、食物繊維が豊富なうえに、ブドウ糖や果糖と違うオリゴ糖が含まれています。
このオリゴ糖は肉や魚には含まれておらず、また、胃や腸で吸収されにくく蓄積されないまま便と一緒に排泄される、太りにくい糖と言われています。
また精製されていない玄米やオートミールは穀物ですが食物繊維が豊富で血糖値の上昇が緩やかであるとされているので有効な食材と言えます。
中でもさつまいものでんぷんは『難消化性でんぷん(レジスタントスターチ』と呼ばれ、消化されずに大腸に届き、血糖値の上昇抑制などの食物繊維と同様の働きが期待されているので、糖尿病食に適した食材として有名です。
ただし焼きいもは血糖値の上昇速度が白米よりも早いといわれているので、GI値の低い調理法である蒸し芋にして冷ましたものを与えるとより血糖値の上昇を抑える効果が期待できます。
また豆腐や納豆の大豆製品は食物繊維だけではなく、植物性たんぱく質も豊富なうえ、血中のコレステロールを低下させる働きが期待されているので、糖尿病や体重のコントロールには適した食材といえます。
参考:食品データベース
炭水化物で血糖値上昇
血糖値の上昇に最も影響を及ぼすと考えられているのが糖質の多い炭水化物の摂取です。
炭水化物は米や穀物に多く含まれていますが、肉や魚には炭水化物が含まれていないので糖尿病対策の食事には向いています。
ただし高脂質な肉や魚はNGです。犬の糖尿病に併発する疾患は高脂血が関わる事が多く、血糖値だけではなくコレステロールにも気をつけなければいけません。
脂質の多い肉や魚を食べ続ければ中性脂肪が増え肥満の原因にもなりますので、脂質の少ない肉や魚を使う事が好ましいでしょう。
脂質が少なめの肉、魚
食材名 | 食材名 |
---|---|
イワシ | 鶏ささみ |
アジ | 鶏むね肉(皮なし) |
カツオ | 豚肉(赤身) |
マグロ | 牛肉(赤身) |
タラ | 馬肉 |
鮭 | ラム肉 |
肉や魚に含まれるたんぱく質は犬猫にとって体を作るための大切な栄養素です。
特に鮭や青魚に含まれる不飽和脂肪酸はインスリン分泌の改善や血糖値を下げる効果が期待されています。
魚を選ぶ場合には、同じ魚でも脂質の少ない品種を選ぶ事や、部位であれば腹身より背身を選べば脂質が抑えられるでしょう。
食事を作る際の注意点
食物繊維の過食に注意
糖尿病の場合、上記で解説したように高繊維、低炭水化物、低脂質の食材を組み合わせて作ることが好ましいのですが、犬猫は人よりも消化能力が低い動物です。
そのため、糖尿病に効くからといってとにかく野菜をたくさん食べさせよう!と意気込み、犬猫に食物繊維を過食させてしまうと下痢や嘔吐、消化器官への負担などを引き起こしてしまいます。
犬猫の体を作るのに重要なたんぱく質を中心に、低脂質に抑え、高繊維が期待される野菜を混ぜてあげるといったバランスで作るとより安心して与えられるでしょう。
目指す食事のバランス
糖尿病である場合、血糖値の上昇を抑え、コントロールすることが重要であると解説しました。
しかし、血糖値を上げたくないからといって糖質が多い炭水化物を一切摂らないで欲しいという事ではありません。
炭水化物に含まれる糖質のブドウ糖はたしかに血糖値を上げてしまいますが、ブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源であり、不足すれば脳の働きに影響が出てしまいます。
ブドウ糖は脳に蓄えておくことはできないので、療法食、予防食として目指すのは過剰に摂取しないように『低炭水化物に抑える』という事です。
たんぱく質 > 芋類・精製されていない穀物 > 高繊維野菜
このようなバランスで食材を使用すれば、より療法食、予防食に適した食事になるでしょう。
糖尿病の食事管理は個々の症状の違いでバランスが変わってきますので、必ず獣医師に相談しながら実践していきましょう。
フルーツの果糖に注意
フルーツはヘルシーでビタミンなどの栄養も多く健康に良いとされる食材のイメージですが、そのイメージの反面、果糖を多く含むので糖尿病には向いていない食材です。
果糖はブドウ糖のように直接的に血糖値を上昇させることはありませんが、糖新生によって果糖はブドウ糖に変換されるので、間接的に血糖値の変動に影響を及ぼします。
また、果糖は摂りすぎると肝臓で中性脂肪に合成され、肥満にも繋がります。
フルーツは犬猫が必ず摂らなければいけない食材とは言い難いものなので、与える必要がなければ控えた方が良いでしょう。
まとめ
糖尿病は一生涯にわたって付き合っていく病気です。
犬猫が糖尿病を患うと、主に多飲多尿と言った特徴的な症状が現れますので、愛犬愛猫が普段から一日どの程度の量の水を飲んでいるのか、また排尿はどの程度なのかを観察、確認しておくと変化に気づきやすいでしょう。
いつもよりご飯を多く食べる、常にお腹をすかせて食べ物を欲しがるなど食欲の増進があるにも関わらず体重が減少しているようであれば、これも糖尿病を疑うべき状況であることを覚えておいてください。
糖尿病の治療は食餌での血糖値コントロールが必須となり肥満予防、血糖値上昇抑制に効果的な高食物繊維、低炭水化物、低脂質な食事を摂る事が大切です。
ただし検査の数値をもとに獣医師と相談し、食事内容を決めるようにしてください。
参考:猫の糖尿病
参考:犬の糖尿病
参考:イヌ・ネコ家庭動物の医学大百科