歯周病とは
歯周病は人と同様に犬猫も起こす口腔疾患で犬猫ともに最も多い病気といえます。
歯肉炎と歯周炎の総称を歯周病と呼び、歯肉の腫れや出血、さらにさらに進行すれば歯を支えている骨が溶けてしまうこともあり、歯の脱落も起こりうる病気です。
歯肉炎
歯周病の初期症状である歯肉炎。これは歯肉(歯茎)が赤く腫れることから始まり、症状が進行すると歯肉(歯茎)から出血が起こりやすくなります。
この段階で症状に気づき、治療を始め原因の除去ができれば元の健康的な歯肉(歯茎)の状態に回復して歯周病の進行を防ぐことができます。
歯周炎
上記で解説した初期症状の歯肉炎を放置してしまうと、歯肉溝の細菌が増殖して歯肉と歯の結合がはがれて炎症がさらに深い歯周組織に波及していきます。
この重度の炎症の事を歯周炎といい、歯周炎まで進行してしまうと、歯を支える骨が溶けて、歯が抜け落ちるなどの深刻な状態になる事もあります。
この歯周炎で一度歯周組織が壊されてしまうと元の状態に戻すことはできません。
主な原因
歯周病の原因は、歯垢の中に潜む細菌や細菌が出す毒素に対する防御反応を起こすことなどから歯周組織に炎症を起こすためとされています。
口腔ケアを怠ると歯垢が石灰化して歯石となり、歯石のザラザラした表面に更に歯垢が付着しやすくなるという悪循環を繰り返しながら歯石の厚みや範囲を広げていきます。
この歯石を作る悪循環が続くと、炎症も酷く深いところまで進んでしまいます。
そうなると歯を支えている歯槽骨が侵され歯を保持することが困難になり最終的に歯が抜け落ちてしまうのです。
歯周病の症状
- 歯肉(歯茎)が赤く腫れる
- 歯肉(歯茎)からの出血
- 歯に歯石が付着する
- 口臭がきつくなる
- 食べ辛そうにしている(口の片側で食べる)
- 食欲の低下
- 歯肉(歯茎)が紫色などに変色する
- 歯がぐらぐらする
- 歯が抜ける
細菌の増殖や出血、膿などのせいで口臭がきつくなり、進行が進むとその匂いは明確に強くなる傾向にあります。
普段より口臭が気になると思ったら、口腔内をチェックし、炎症や歯石があれば獣医師の診断を受けましょう。
歯周病が及ぼす悪影響
歯周病は口腔内の炎症が引き起こす病気と解説してきました。
しかし、炎症を起こして歯が抜け落ちて終わり、というわけではありません。
歯が抜け落ちる事だけが最悪な症状ではなく、更に重症な場合には歯周病からは予想ができないような疾患を引き起こすことがあります。
- 鼻炎
- 顎の骨折
- 頬、目の下から膿
- 心臓病
- 肝臓病
- 腎臓病
重度の歯周病は口に近い鼻や顎の骨にまで影響を及ぼし、鼻炎を起こしたり下あごを骨折してしまう事があります。
ごはんを食べ辛そうにしていたり、顔を見た時に下顎がズレている場合には歯周病を要因とする骨折が疑われます。
また、歯周病菌が上あごの骨を溶かし、頬や目の下から膿が出てくるケースも。
更に深刻なものは口腔内の炎症部位の血管から細菌が入り込み心臓や肝臓、腎臓の疾患の要因となる場合もあるので、歯周病はたかが歯の病気と侮ってはいけない病気なのです。
歯周病の治療
動物病院では歯周病の程度を詳しく把握するために様々な検査が行われます。
軽度の歯肉炎であれば口腔内を清潔にし、ブラッシングなどで歯垢の除去を行い、必要な場合には薬の投与も行われます。
進行した歯肉炎、歯周病であれば、全身麻酔を行い歯垢や歯石の除去を行うようになります。
更に進行した歯周炎で歯のぐらつきが酷い場合や治療後に管理が十分にできない場合には抜歯を行う事も。
歯石除去で全身麻酔?と思う方もいるかもしれませんが、犬猫は人と違い口を開けて静かに待つという事は不可能に近いため、必要な処置となります。
しかし、ごく稀に全身麻酔を伴う治療の後、目を覚まさずに命を落としてしまうケースがあります。
全身麻酔による治療を否定するものではありませんが、全身麻酔を何度も繰り返したりすることは獣医師も飼い主も、そして愛犬愛猫自身も避けたいのではないでしょうか。
日ごろから口腔ケアを行い歯周病を予防する事や、初期に気づき、適切な治療を行うことで全身麻酔を伴う処置や手術を回避または回数を減らすことができます。
このようなことから、犬猫の口腔内の健康チェックはとても重要と考えます。
歯周病の予防
一番大切なのは日々のオーラルケア!歯垢は3~5日で歯石になる
歯周病は歯垢や歯石が原因です。
食後の歯磨きなどで口腔内の清潔を保ち細菌の増殖を抑制することや、口腔内の状態を日ごろチェックする事が歯周病の一番の予防と言えます。
犬猫の口腔内は歯面を清浄しても24時間以内に歯垢が付着し、その歯垢は3~5日前後で歯石となるといわれています。
そのため、可能であれば毎日歯磨きをすることが理想です。
しかし、歯磨きが苦手な犬猫は多くいるので、歯磨きが難しい場合にはデンタルケア・オーラルケア用のおやつなどの製品を活用するとお互いにストレスなくケアができるでしょう。
ただし、犬猫用のケア製品の中に非常に硬いガムなどがあります。
これは犬猫の歯にとても負担をかけ、口内を傷つけてしまい歯周病を悪化させることがあるので避けた方が良いでしょう。
食事での対策
歯周病は口腔内に痛みを伴う症状が主にあります。
傷ついている歯肉に硬いものが当たったり、不必要な味付けをすればその塩分で痛みを感じて食事を嫌がるようになってしまいます。
総合栄養食であるドライフードをきちんと食べられていればいいのですが、噛むことを嫌がり食べなくなってしまうと体力の低下や衰弱を起こし、治療に支障をきたす場合や、免疫力の低下は炎症の治癒が遅くなる事もあります。
口腔内の健康回復を期待した栄養を含む食材を使って歯周病でも食べやすい手作りごはんを用意してあげるのもひとつの選択です。
ここでは口腔内の健康に役立つ食材、栄養を解説します。
ただし、手作りごはんだけで一日の栄養バランスをとることは難しい場合があります。
獣医師から指定の療養食があればそちらを与える事を優先し、総合栄養食であるドライフードをふやかしたものや、総合栄養食のウェットフードなどを併用して1日に必要な栄養のバランスを崩さずに与える事をおすすめします。
ビタミンC
活性酸素によるダメージは歯周病に関わる可能性がある事は至る所で報告されています。
ビタミンCのような抗酸化物質を摂取することで酸化ダメージを抑制する事や、コラーゲンの生成で粘膜の健康維持、そして傷を早く治す効果が期待されます。
おすすめの食材
- パプリカ
- パセリ
- ブロッコリー
- キウイフルーツ(黄肉種)
β‐カロテン・ビタミンA
犬はβ‐カロテンを体内でビタミンAに変換します。
猫に関してはこのβ‐カロテン→ビタミンAの変換は行われませんが、β‐カロテン自体の強い抗酸化作用や免疫活動の活性化に役立つと考えられています。
β‐カロテン、ビタミンAともに皮膚、粘膜の健康維持に役立ちます。抗酸化作用も期待でき、活性酸素の除去で免疫力アップに効果的。
おすすめ食材(β‐カロテン)
- 焼きのり
- 青のり
- パセリ
- にんじん
- ほうれん草
葉酸
葉酸は細胞の生まれ変わりや成長をサポートするのに役立ちます。
『造血のビタミン』とも呼ばれ、血液を構成する栄養です。出血を伴う症状が多い歯周病にとっては大切な栄養素と言えます。
おすすめの食材
- 鶏レバー
- 牛レバー
- 豚レバー
ナイアシン
ナイアシンは水溶性のビタミンB群のひとつです。
酵素を助ける補酵素としての役割を担っていて、エネルギー産生、糖質、脂質、タンパク質の代謝、DNAの修復や合成など様々な機能に関わっています。
皮膚や粘膜の健康維持をサポートします。
おすすめの食材
- まいたけ
- 鰹節
- カツオ
- マグロ
カルシウム
リン酸と結合して骨や歯などを作るほか、細胞の分裂や神経興奮の抑制などにも関わります。
歯周病は骨や歯を溶かすことで知られている病気ですので、カルシウムを摂取することで脆くなった骨や歯の健康維持に期待が出来ます。
おすすめの食材
- 干しえび
- 脱脂粉乳
- 寒天
マグネシウム
骨の成長や強化、維持に重要な働きをするミネラルの一種です。
カルシウムと密接に関わりながら、多くの体内酵素の正常な働きとエネルギー産生をサポートするとともに、血液循環を正常に保つ働きがあります。
おすすめの食材
- わかめ
- きな粉
- バナナ
ビタミンD
丈夫な骨や歯を作り、骨や歯の健康維持に役立ちます。カルシウムと一緒に摂ると、体内でカルシウムの吸収がアップします。
おすすめの食材
- 鮭
- いわし
- 卵黄
- まいたけ
ビタミンK
血液と骨には不可欠のビタミンKは、血液を固めて出血を止める働きをする脂溶性のビタミンです。
歯肉からの出血を抑え、治癒に役立つだけでなく、骨にカルシウムを定着させるサポートをしてくれるので骨や歯を丈夫にしてくれます。
おすすめの食材
- 納豆
- パセリ
- バジル
参考:酸化ストレスと歯周病
まとめ
歯周病犬猫が最もかかりやすい口腔疾患です。
初期段階である歯肉炎の時点で治療を始めれば元に戻せる場合が多いですが、歯周炎となり骨を溶かすなどの重篤な症状まで進行してしまうと元に戻すことは不可能といわれています。
また、歯周病から派生した下あごの骨折や、炎症を起こしたところから血管に細菌が入り込んでしまうと、心臓や肝臓などの臓器の疾患にも繋がります。
たかが歯の病気とは思わずに、日々のオーラルケアで口腔内を清潔に健康に維持することがとても大切です。
歯肉炎や歯周病になってしまった場合には、口腔内を傷つけてしまう硬い食べ物は避け、手作りのごはんで粘膜、骨や歯の健康維持や抗酸化作用がある栄養素が摂れる食事を用意することで、内側から予防・対策をしてあげるのもいいでしょう。